かれこれ7年もお付き合いのあるご近所のお客様が、やすり製作の職人と知ったのはつい先日のこと。
その大正生まれの職人が作るヤスリは、驚くほど精緻に刻まれた目で、爪でなぞるとまるで刃物のような切れ味。
目立てに使用する大小様々なタガネも厳選された鋼材の手製で、研いでいくうちにどんどん小さくなってしまうそうだ。
切れ味の鈍くなったヤスリは再生のために職人の手に戻る。
一旦グラインダーで目を全て落とされ、コークス炉で焼きなまし。
再度目が立てられ、完全に切れ味を取り戻す。
「私は、米ニコルソンのバカ高いファイルを使い捨てなんですよ。とってももったいないことをしていました。」
というと
「さすがによくご存知ですなあ。ニコルソンは確かに母材が違います。でも古臭い前時代的なヤスリもね、捨てたもんやないですよ。」
と笑いながら少し持って帰りなさいと、遠慮する私に持たせてくれたのが写真の3本。
あとで聞いた話で、この職人の作るヤスリでないと仕上げられない日本刀があるとのこと。産業の原点ともいうべき素晴らしい技術も、他の例に漏れず後継者不在という悩みを抱えているのだそうだ。